スペイン知的財産権だより

スペイン知的財産権だより

スペイン知的財産だより

Chara Biz.comというキャラクタービジネス総合サイトの会員向け情報を経て一般公開された記事です。

  • リーガルスタジオ スペイン&ジャパン 真覚久美子著

    リーガルスタジオ・スペイン&ジャパンは画家ピカソの生地マラガで、日西間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社です。今回から4回に渡って、スペインそして欧州共同体における日本の知的財産権情報をお伝えします。

    スペインは世界第二位の観光立国。しかし民主化されたこの30年余りの間にGDP七位の経済大国に成長したことはあまり知られていません。そんなスペインで最もポピュラーな日本文化はマンガ・アニメ・ビデオゲーム。例えば「クレヨンしんちゃん」の人気が海外一なのはスペイン。キャラクタービジネス専門誌の2003年度「最優秀エンターテイメントキャラクター賞」を受賞する他、2004年のスペインにおける「Shin chan」の単行本発行部数は124万部で、それに続くドイツやアメリカは4万部台。日本のアニメは新旧混ぜて40タイトル前後が常時放送されており、マンガの単行本も毎月たくさん発行されていて、売り上げが伸びています。

    このような人気が高じてうまれたビジネスシーンに大きな問題があります。まず販売されている多くの商品が模倣品。例えば今スペインの若者に大人気な「デスノート」。「死神リューク」のぬいぐるみは、ネット販売で簡単に10種類ほどのサイズ価格デザインも仕上がりも異なったものが見つかります。これらの商品は形状が本来のキャラクターに忠実でないばかりか、そのほとんどが粗悪品で、日本のコピーライトのタグがついたものもありました。欧州共同体参加保険機構が決めた安全基準では、ぬいぐるみは0歳児が遊んでも危険でないものである必要がありますが、このような商品で消費者に問題が起きる可能性は高いです。これはあくまで一例で、ひとつのタイトルにつき商品アイテム数100を超えるショップもあります。ここで考えられることは、「高い人気・品薄・文句を言われない」という理由で、各社が独自に無許可の商品開発、製造を中国などで行ない、全ヨーロッパで輸入販売しているということです。税関もこれが侵害品だという情報は受けていませんので対応できません。このような商品は専門店またはネットショップにおいて販売されるほか、最近ではスペイン各地で毎月行われているマンガ・ビデオゲーム関連イベントでも大量に販売されています。ここでもうひとつ問題なのは、模倣品を公然とかつ大量に販売するこのようなイベントを公の政府が主催または後援していること、そしてライセンサーが黙認してきていることです。ここ数年で各地にオープンしているサンリオショップも人気がありますが、ハローキティの無許可のネットショップではつけまつげをつけたキティがお出迎え、「Raruto」という「Naruto」のパロディはショートアニメも公開し、作者が単行本を7冊、Tシャツ、マグカップなどのグッズ50点余りをウェブで世界に販売、「小さなバイキングビッケ」は飲料水のテレビコマーシャルに出ていますがコピーライト表示が無い。そこで次回はこのような侵害の具体的な対策方法についてご説明します。

  • リーガルスタジオ スペイン&ジャパン 真覚久美子著

    任天堂は昨年の調査で著作権侵害行為の特に著しい国は、中国・韓国・メキシコ・スペイン・パラグアイと報告。残念ながらスペインはヨーロッパ唯一の国で、6カ国のうち半分の3カ国はスペイン語を公用語とする国です。

    同社はスペインでP2Pによって行われた違法ソフトのダウンロード被害総額は分からないが、代表的な3つのダウンロードウェブのデータによると、“Cocina con migo”という料理ナビソフトは1,100万件ダウンロードされていて、これは店舗で販売された正規品の倍と言う数は正しいと考えている。このソフトの一般上代は30ユーロ。単純計算で被害額は3億3千万ユーロ。日本のマジコン販売禁止同様、株式会社任天堂イベリカ(任天堂スペイン)はコンピューター関連製品を販売するチェーン店による被害を通報、スペイン警察は今年2月に複数の地方にある15の店舗を捜査し、ゲーム機に海賊版ソフトを収容できるようにするM3 DS Realという名で販売されていたマジコン1,150個を押収しました。また5月には任天堂とソニーの訴えによりスペインの知的財産権侵害特捜部・地方警察などがゲーム販売を行う大手フランチャイズ2社のマドリード・セビリア・バジャドリ・マラガ・サラマンカ・レオン・ラコルーニャにおける22店舗で一斉取締りを行い、922,000ユーロ相当の3万点を押収。今回押収されたのは13,568点の海賊版ゲームソフト、MODチップ6,887点、不正ソフト用機器マジコン1,039点など。これは権利者が警察に被害を届け出ることで対処できる具体例で、専門家による綿密な鑑定情報を元に模倣品販売などにも応用できます。スペイン語は世界で英語の次に多く話される言語で、その多くの国が貧しく、ゲームやマンガなどが思うように手に入らないことからも、海賊版が氾濫する状況があることから、スペインのこのような検挙は、インターネットで通じている他のスペイン語圏の国々に毅然とした姿勢を示すことになり、また市場統合されているEU全体にとっても大変大きな意味があります。

    このような被害に損害賠償を求めるのであれば、裁判です。欧米では日常茶飯事で誰でも簡単に起こせます。大事と捕らえずに不法行為に対応することが大切です。例えば判決が早く、経費も小額で済む刑事裁判を起こすための弁護士費用は事件の本拠地、損害賠償金額、模倣品の数などにもよりますが、大まかには3千-6千ユーロです。

    今年3月欧州税関の知的・産業財産侵害対策活動計画委員会は、欧州において今まで訴えが無くても行っていた模倣品の検挙、押収を「権利者が行動に出ない、または情報を的確に提供しない場合、取締りとその他の処置を行わなくする可能性を作り出す」方向に変えることを検討すると発表。何もしないことは不法行為を認めることになります。今こそ、日本の権利者がEUの会社とともに積極的に欧州税関や警察に情報提供やアクションを起こさなくてはいけない時期です。

    リーガルスタジオは、上記のような対策を、言語の問題なく、スペイン市場動向や該当する規則などの専門知識を持って対処させて頂きますので、お気軽にご相談ください。

  • リーガルスタジオ スペイン&ジャパン 真覚久美子著

    昨今インターネットによって違法コピーが氾濫(はんらん)する事態に警鐘を鳴らす判決が世界で起きていますが、スペインも例外ではありません。2008年11月ログローニョ第一刑事裁判所の判決で、ウェブ上でビデオゲーム・音楽などの無料ダウンロードへのリンクを提供し、広告収入とSMSメッセージのやりとりで経済的な利益を得ていたこと、作品のアートワークを無許可で提供していたことで22歳の青年が有罪になり、6ヶ月の拘置、2,160ユーロの罰金などが言い渡されました。データの送受信を知的財産権侵害で有罪にするには、「未許可の公衆伝達がある」「流布が利益目的で行われた」という二つの要素をかなえていなくてはならず、今まで有罪にすることはありませんでしたが、今回裁判官の解釈が変わり有罪になったことは特筆すべきです。今後も裁判官ごとにその解釈の違いはあるにしても、この判決が不法ダウンロード対策の新たな方法になることは間違いありません。また最近ではP2Pの代わりに期間限定の大容量ファイルを無料で送信できるシステムを使用するケースも増えていますが、これらのケースでも広告収入を得ていることが多く、訴えれば結果は同様になることでしょう。

    前回ひとつのソフトがスペインで1100万件違法ダウンロードされていたことをお伝えしましたが、日本のほとんどの人気ゲームソフトは被害にあっています。オリジナルゲームの他にも、登場人物を勝手に使って作られたゲームは何の規制も無いので、使われている言葉や内容が子供たちに悪影響を与えるものが多く、ドラゴンボールとナルトなど有名な登場人物を混ぜることも良く行われています。またスペインは携帯へのコンテンツのダウンロードがヨーロッパ一活発な国ですが、待ち受け画面・ビデオ・音楽などの違法コピーも無視できません。

    このような事態に対してソフトメーカーもライセンサーもほとんど対応していません。私たちが権利者にヒアリングして来たところ「被害額がつかめない上に対策の費用効果がわからない」「権利者が複数にまたがるので行動を起こしにくい」「中国対策で人手も予算も手一杯」といった返事でした。また多くの場合コンテンツ名のスペイン語の商標登録すらされていません。では本当に対策はそれほど大変なのでしょうか?著作権侵害で訴えるにはまず権利ありきですから、日本でその商品が販売されているだけでは駄目で、侵害されているものがスペインにおいて権利登録されていることが前提になります。しかし前回ご紹介したような「不正競争防止法」であれば、保護する対象に対して具体的な行為の禁止事項を定めているので、信用の保護など、商標権、意匠権等では十分に守りきれない範囲の形態を、不正競争行為から保護することができます。したがって、絶対的な効力を持つ知的財産権と、効力が相対的ではあるけれども、知的財産権で保護できないものを保護できる可能性がある不正競争防止法の両方で訴訟を起こすことや、両者をうまく使い分けることをお勧めします。インターネット上のスペインにおける侵害対策は、世界で二番目に人口が多いとされるスペイン語圏全てを対応することになることをお忘れなく。

  • リーガルスタジオ スペイン&ジャパン 真覚久美子著

    先週末マラガで開催された「ベナルマデナ・コミック・マンガ・戦略ゲームフェア」に行きました。今回はアンダルシア州政府・マラガ県議会・ベナルマデナ市役所の協賛で、市長が開幕。すでに夏休みということもあって小学生から大人までコスプレイヤーや親子連れなどでにぎわいました。中でも人気の販売スペース20店舗中3軒以外はマドリッド・バルセロナ・バレンシアからの出展。多くは2tトラックで什器や商品を持ち込み、2-3人でマンガ、DVD、イラスト集、雑貨にフィギュア、ぬいぐるみなどを販売。ざっと70-80%が海賊版でした。そこで是非見ていただきたいのがこのウェブ。http://www.kmerchan.com 左側にあるタイトルをクリックするとたくさんの不思議な商品がご覧頂けます。出展者のほとんどは路面店を持たずにこのようなイベントを渡り歩いて販売するか、ネットで販売。最近では取締りを恐れてか、ネット販売には問題のない正規商品の写真だけ使っているところもたくさんありますが、この品揃えがイベント販売の主流です。この他にもパッケージの形状までそっくりなフィギュア、ミニフィギュアは売れ筋だけを無駄なく売るなど、顧客のニーズをうまくついた品揃えです。10月29日から4日間バルセロナ郊外で開かれる第15回マンガフェアはスペインの現状を知るのに最高です。是非いらしてください。

    7月14日付ネット販売と関連マーケティング協会の広報によると、「EUは海賊版に頼らずに音楽や映画などをダウンロードできる新たな規則が必要だ」と言い、EUテレコミュニケーションコミッションでも優先事項だとしています。ヨーロッパのデジタル市場が統合していることを踏まえ、消費者に友好的で、同時に作者たちの知的財産権を保障するようなわかりやすい法律を作り出す必要性を訴えました。「現在の法律は若者たちをインターネットの海賊にするような仕組みになっている」というコメントも。実際スペインの著作権協会はこのような不法ダウンロードを踏まえ、再生機やハードディスクなどの価格に著作権料を上乗せして徴収しているので、不法ダウンロードしてもすでに著作権料は支払済みだという消費者もいます。また、ソフトがヨーロッパ価格で流通しているが、フランスとスペインでは平均所得が異なることは歴然としている。従ってスペイン人はなかなかオリジナルが買えず、ある意味若者を不法なダウンロードに導くという意見もあります。そんな中、バルセロナの裁判官は、著作権協会のあるウェブにおける音楽と映画のダウンロードに対する訴えに、大量配布もされておらず、広告収入もない非営利のP2Pにおけるファイル共有は著作権侵害にならないと判決を下しました。スペインにおける違法ファイル共有ユーザーに対する「スリーストライク」レジーム導入の可能性がほぼなくなった今、日本企業は末端の消費者ではなく、中には日に150万件ものコンテンツのダウンロードが行われているウェブや営利目的のウェブ、無許可でキャラクターを使用しているゲームソフトやマーチャンダイジング商品を的確に調査し、対処することではないかとリーガルスタジオは考えます。スペイン・中国における調査、裁判などお気軽にご相談ください。

連載

スペインにおける知的財産権を専門に扱う法律サービス会社である「リーガルスタジオ社」の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)による連載です。